- 協調的認知活動
- 協調学習支援
協調学習支援
人を賢くする支援方法や賢さを引き出す方法について分かってきた4つの研究を紹介します。これらの研究は実際の講義で使われ、そこでの記録を残しそれを共有吟味するシステムを作って評価検討しています。ここでは、それらに使われるツールの機能とその効果について分かってきたことを紹介します。詳しくは各々の参考資料をダウンロードして下さい。
- 読む過程の軌跡を残すツール:CArD (Card Arrangement Displaer)
- 英語をパズルのように読むツール:TransAssist
- 講義で質問やコメントを共有する掲示板:IQ_R (Interactive Query Raiser)
- ノートを共有して吟味できる:ReCoNote (Reflective Collaboration Note)
また、今後進めていく研究は、学生が学んだ内容を記録として蓄え、それを必要に応じて取り出し統合的にまとめながら学ぶ活動を考えています。以下はその活動を支援するツールです。現在はまだ試作段階ですが、これらを導入した講義デザインを考え、支援活動に反映させていくことを目指して研究に取り組みたいと考えています。
◆ 読む過程の軌跡を残すツール:CArD(Card Arrangement Displaer)
CArDは文章を文や節の単位で区切ったものをカードにして、それらを自由に配置する過程を記録して、文章の読解を支援するツールです。
このような方法で文章を読むことで、文章の対比などを踏まえた理解がされやすく、文同士をより広い範囲で関係付けながら読み進められ、文章の足りない点に気付きやすくなることが分かってきました。また自分がよく分かっている箇所、分かっていない箇所が明確になることも分かってきました。
これはつまり、読み手が読んでいる途中で理解した文章の構造を、実際に目に見える形で表しながら読むことができるからだと考えられるからです。
野田耕平 (2000) 「読解過程の外化による長文の多層的な理解を支援するツールの開発と評価」 日本認知科学会 第17回大会発表論文集, pp.168-169.
◆ 英語をパズルのように読むツール:TransAssist
英文の節の区切れにスラッシュを引いてビジュアル化し、それを切ったり繋げたりと文節の組み換えを簡単して、英語を読みやすくする支援ツールです。
例えば、On/the bridge/of/USS Enterprise,/a dicidedly clipped female voice announces/that/the computer/is "working". というように区切った文章を、/USS Enterprise/は/the bridge/にかかっているから、この2つを切り取り繋げて読みます。このように英文の節を解体しながら読みます。
このような方法で英語を読むことで英文の文法構造をじっくりと考えながら読め、英文の意味が深く理解できたり、英語の構文を段々と理解することが考えられます。これは紙で英文を読むときは頭の中で節の組み換え作業をしなければならないが、外化した節を組み換えられることで視覚的に視点を変えることができるからです。そしてこの組み換え作業を通すことで、文法構造をとらえやすくなると考えられるからです。
詳しくはこちらをご覧ください
http://www.do-gugan.com/old/sotsuron/
◆ 講義で質問やコメントを共有する掲示板:IQ_R(Interactive Query Raiser)
講義中で質問や議論をすることは学びにおいて良い活動ですが、それをすることは難しいです。IQ_Rは講義後でも質問や議論ができる掲示板システムです。掲示板には講義内容が要約して短めの行に区切り掲示して、そこにコメントできるようになってます。
このような掲示板のデザインを用いると、学生の色々な考え方が共有されるので、それにより様々な視点から考えることが支援できます。また講義内容が残っていることで、講義後でもその内容を振り返ることができ、講義内容から発展した内容の意見交換をすることが支援できます。
しかしこうした掲示板は設けただけでは積極的に学生に使われず、また最初から初学者が良いコメントを書くことが難しいため、講義で指示したり講義の中でコメントを書くポイントを説明するなどしたことで、掲示板に書かれるコメントは段々と増えてきました。そしてこのようなことを2年間試した結果、質の良いコメントが増えてくる傾向が見られました。
中山隆弘 (2000) 「共有による質問促進システムの試み」 日本認知科学会 第17回大会発表論文集, pp.172-173.
詳しくはこちらをご覧ください(マニュアル)
http://www.crest.sccs.chukyo-u.ac.jp/~iqr/manual/manual.html
◆ ノートを共有して吟味できる:ReCoNote(Reflective Collaboration Note)
認知科学のいくつかの研究を自ら関連づけて統合化することを狙った目的で行なっている講義で、その活動を支援するツールがReCoNoteです。
まずこのような活動をするのに講義では、グループ作業で1つの研究をまとめてReCoNoteのノートと呼ばれるものに記入します。このノートは他者からも見られます。これを参考にして、他のグループではどのような研究が紹介しているかを調べ、自分のグループの研究との関連性を見出す吟味活動を行ないます。そこでReCoNoteのリンクと呼ばれるものを使って、関連性のあるものにリンクをつけ、どのような関連性があるかを記入してもらいます。このリンクは他者からも見られます。これを参考にして、今度は他のグループ同士の関連性を見出して、それをReCoNoteのリンクを使ってリンクを作っていきます。つまり自分が分かっている領域知識をまとめ、そこから段々と別領域へと世界を広げつつその関連性を付けていくような活動とそのツールを使うことで、統合化を目指すような仕掛けをしています。
このような活動支援から、最初に調べた研究をより深く理解することができた上に、さらに他との研究との関連性を見つけたことで調べた研究の矛盾点などを見つける深い洞察ができていました。
益川弘如 (1999) 「相互リンク作成による学習内容の再吟味支援とその効果-協調学習支援ノートシステムReCoNoteの活用-」 日本認知科学会 第16回大会発表論文集, pp.166-167.
詳しくはこちらをご覧ください
http://www.crest.sccs.chukyo-u.ac.jp/~masukawa/rcn.html
◆ CoRef-MMD (MultiMedia Document system)
ビデオや音声、画像、テキストなどのマルチメディアドキュメンをカード化して、それらを二次元空間に自由配置できるツールです。例えば、ビデオのような映像から必要なコンテンツ部分を切り取るとカード化されるので、それらを空間内に自由配置してカードを並び替えてカード間の関連性を考えたり、全体の構造を捉えたりすることができます。またカード間でリンクすることができ、関連性を記録することができます。
さらにまとめたカードを1つにまとめることができ、まとまったカード同士にもリンクすることができて、構造的な関連性を把握することができます。またカードに重みづけをすることができ、二次元空間から三次元空間の構造的な配置で眺めることができます。
そして、作成した自由配置のカードをネットワーク上で共有でき、他人が作成したカードの閲覧やそれを利用して新しくカードを作成することもできます。それから、自分が作成してきた変遷(履歴)を見ることができ、自分がどのようにまとめてきたか、といったメタな視点で捉えることができます。
現在このツールは開発途中でありますが、利用可能な機能をゼミ生を対象に行なっている教養講座で使用しています。今後はゼミ生がどのように教養講座で使っていき、どのような学習活動に効果が見られたかを検討していくことを考えています。
◆ CMS(Commentable Movie Sheet)
講義をそのままビデオで記録して後から見直せるようにし、必要な部分を短く切り出してコメント可能にしました。学生が1回聞いただけで講義の内容を全部分かることはほとんどありません。この CMS を使って約1時間の講義のビデオを3~5分ずつに切り分け、数人で内容を検討しながら見直す活動の効果を検討したところ、見直しに時間はかかりますが、3ヶ月経っても講義中の大事な内容をおぼえていることが分かりました。こういうツールが本当に活きるためには、講義内容を数分ずつの意味単位で区切るなどの前準備の仕方、グループで見直して討論するときのガイドライン、そもそも講義の仕方など、まだまだ研究すべきテーマがたくさんあります。
◆ ノート共有型協調学習支援システム
ReCoNoteをバージョンアップさせ、MMDのテキストメディアを特化させたツールです。ReCoNoteの基本的な機能であるシートに書く、他人のシートを参照する(共有する)、他人のシート間にリンクを(関連付ける)してそこに注釈を記述することができます。ここで今回のリンクの仕様は、従来のReCoNoteのリンクと変わりました。リンクしたいシートをリンクするシートと重ねることでリンクすることができ、直感的なインターフェイスの実現と複数同時のリンク関係を作ることができました。
さらに4つの大きな機能が追加されました。1つめは、キーワード検索や日付検索などの検索機能が追加され、利用者は目的のシートを探しやすくなりました。2つめは、シートやリンクを作り替えるごとに記録されて履歴が閲覧でき、自己の編集活動をメタな視点で捉えることができます。3つめは、シートやリンクや履歴の閲覧や複製を誰に対して許可するかの管理ができるようになりました。4つめは、テキストや画像ファイルをドラッグ&ドロップでシートできるようになり、資料などを入力する作業がなくなりました。
現在このツールは一部開発中ではありますが、利用可能な機能をゼミなどで試作的に使用して、講義にどのように利用できそうかを検討しています。