建設的相互作用説
二人以上の参加者が共有された課題について各自の考え方を話し合いながら解を見つけようとする過程(中略)が一般的に一人ひとりがそれぞれ独自の解を構築し、解を深化させたり、抽象度の高い解を誘発したりするメカニズムを内包するとする説。複数の参加者のうちの一名が課題を遂行する時、他の参加者はモニターとしての役割を果たすと考える。モニターは課題遂行者とは異なるアイディアを持ち、しかも課題遂行過程を課題遂行者よりも広い視点から状況を捉えやすいため、より一般的な解釈の導入を可能にする。この課題遂行者とモニターの役割が頻繁に交代することにより、その場の理解は徐々に一般性、抽象性の高い理解に置き換えられる。(後略) 三宅なほみ(2010).V部 関係と状況の中での「学び」5章 協調的な学び 佐伯胖(監修)「学び」の認知科学事典 (pp. 459-478) 大修館書店, p.465
建設的相互作用説とは、対話を通じて理解を深める学びにおいて、人がどのように理解を深めていくかという過程に関する説の一つです。CoREFのリーダーである故三宅なほみ先生が1982年に発表したのが、この建設的相互作用説です。
複数人が対話を通じて理解を深めると言ったとき、その理解の深まり方について、みなさんはどんな過程をイメージするでしょうか?
みんなの理解が足し算のようにあわさって、みんなが同じ「私たちの理解」にたどり着くイメージでしょうか。それとも、みんなで一緒に一つの課題に取り組んでいるんだけど、その中で一人ひとりは自分なりに考えていて、対話を通じてそれぞれが自分なりの「最初より深化した私の理解」にたどり着くイメージでしょうか。
建設的相互作用論は、対話を通じた理解の深まりを後者のイメージで説明しています。対話の中で、他の人の考えも取り込んで自分なりに考えを見直し深めていくんだけど、一人ひとりは自分なりのこだわりを持って、相手とはちょっと違う自分なりの納得の仕方を追究している(だからこそ理解が深まる)というのがこの説の考え方です。
一緒に問題を解いているんだけど、個々人が相手とはちょっと違う自分なりの納得の仕方を追究しているというのが、対話を通じた理解深化の過程についてのこの説明のミソです。
どういうことか。それぞれ分かり方や視点、こだわりがちょっとずつ違う人同士が一緒に問題解決をしているからこそ、問題について誰かが自分の考えを話してくれたとき、聞いている側の人は、違和感を持って疑問を表明したり、「それってこういうこと?」と自分なりに翻案してみたり、自分の考えていたことと相手の言っていることを結び付けて捉え直して再提案したりすることになります。そうすると今度は立場が逆転して、さっきまで聞き役だった人の考えに対して、また別の人(あるいは最初に考えを話した人)がまた疑問を持ったり、翻案したり、自分の考えと結び付けて再提案したりすることになります。こうした過程を繰り返しているうちに、自然とよりよい説明ができるようになるというのが、この説による対話を通じた理解深化のメカニズムです。
この説に依拠するなら、対話を通じた理解深化を実現するためには、「複数人が(なかなか答えの出ない)一つの課題に一緒に取り組んでいること」「それぞれが違う考えや視点を持っていること」「それぞれが(すぐに妥協したり、分かったふりをしたりせず)自分の考えや分かり方にこだわりながら問題解決に参加していること」といった条件が必要になりそうです。こうした条件を手掛かりに、三宅先生がデザインしたのが「知識構成型ジグソー法」という授業の手法です。
またこの説に依拠するなら、対話を通じた理解深化の過程においては、単にたくさん話していればOKではなく、相手の話を主体的に聞きながら考えている人の役割が重要そうだなとか、一見理解が遅いように見えても自分の分かり方にこだわって「なんで?」と言ってくれる子が実は他の子の理解深化にも貢献しているのだなということも見えてきます。
こうした目で見てみると、小グループでの子ども達の対話も違った風に見えてくるかもしれません。
※建設的相互作用理論の背景にどんな研究があったかについては、旧三宅なほみ研究室のページ(協調的認知活動についての研究紹介)で簡単に紹介しています。