中学校の実践

国語 少年の日の思い出(中学1年生で実施)

蝶集めに対する僕の思い、エーミールの人物像、エーミールに謝れなかった僕の心の動きの3つの視点で作品を読み深め、「僕」が、物語の最後で「ちょうを一つ一つ取り出し、指で粉々に押しつぶしてしまった」理由を考えます。

ジグソー課題
「僕」が、「ちょうを一つ一つ取り出し、指で粉々に押しつぶしてしまった」理由を説明しよう
エキスパート
エキスパートA:蝶集めに対する僕の思い
エキスパートB:エーミールの人物像
エキスパートC:エーミールに謝れなかった僕の心の動き
期待する解答の要素
・自分のしたことが許せなかったから。貴重なクジャクヤママユを手に入れたいがために、図らずも壊してしまった、自己嫌悪の感情。
・自分にとって劣等感しか感じさせないエーミール。事件後、さらに軽蔑されたために、怒りのあまり、事の発端となったちょうを一つ一つつぶすことで、すべてを終わらそうとした。
・自分のしたこととはいえ、謝罪にいったときのエーミールの態度の一つ一つに劣等感を感じ、嫌になってしまったため。
ポイント
エキスパート活動のための特別な「読み物資料」を準備しなくても、テクストや資料の読み取りの視点を定める補助発問を設定することで、エキスパート活動として十分機能させることができます。国語の実践例でよく見られる形ですが、他教科での資料の読み取りや、調べ学習などにも応用が利くやり方です。また、国語の読み深めをねらった授業としては、エキスパートのワークシートで補助発問に答える際、必ず根拠となる文を挙げさせるようにしていることが、テクストから浮いた議論になってしまわないための重要な工夫といえそうです。

 

社会 ヨーロッパ(中学1年生で実施)

ヨーロッパ州ってどんなところ?ヨーロッパについて「各国の文化と歩み寄り」、「産業」、「ヨーロッパ連合」の3つをまとめ、「ヨーロッパ州はまるで○○のようだ、なぜならば…」という喩えを作る活動を通じて、ヨーロッパ州の特色を説明します。

ジグソー課題
ヨーロッパ州は,まるで_____のようだ。なぜならば…
という形で、ヨーロッパ州のキャッチフレーズをつくる
エキスパート
エキスパートA:文化と歩み(ヨーロッパ州の文化と歩みをとらえるための調査課題について、教科書や資料集を活用して調べる)
エキスパートB:産業(ヨーロッパ州の産業をとらえるための調査課題について、教科書や資料集を活用して調べる)
エキスパートC:EU(ヨーロッパ州におけるEUの機能をとらえるための調査課題について、教科書や資料集を活用して調べる
期待する解答の要素
「多様な要素を含み込みながらもEUという枠組みでまとろうしている」というヨーロッパの特色をふまえた説明。
例)まるで,「ルービックキューブ」のようだ。なぜなら,民族や歴史や格差など,国ごとにいろいろな色(個性)を持ちながらも,一つもまとまろうとしているから。
ポイント
オープンエンド型の社会の教材例です。どんな例えをしたらよいかについて1つの答えはありませんが、理由を考えながら適切なたとえを探す過程で、ヨーロッパ州の地理的文化的な特徴を比較検討する活動が自然に起き、理解が深まることをねらっています。授業デザインの大枠は、他の地域の学習や他教科にも応用しやすいものとなっています。エキスパートの調べ学習では,主題に即して探究が深まるような調査課題をうまく提示できるかがカギになります。

 

社会 江戸幕府(中学2年生で実施)

江戸幕府はなぜ長期に政権を維持できたのか?「大名配置」、「参勤交代」、「外交・貿易統制」という3つの重要政策に着目してその理由を考えた子どもたちが、考えをまとめてみることで「大名統制」というキーワードが浮かび上がります。

ジグソー課題
江戸時代が長く続いた理由を説明しよう
エキスパート
エキスパートA:大名配置と幕府領(要衝は幕府直轄とし,外様は遠方に,江戸周辺には信頼できる大名を配置)
エキスパートB:参勤交代(経済的な負担を強要。妻子は人質)
エキスパートC:外交・貿易統制(外国との貿易制限)
期待する解答の要素
徳川氏による経済的利益の独占
全国の大名が幕府に反抗できないような仕組
ポイント
問いがうまくはたらきました。「江戸時代が長く続いた理由を説明する」というゴールイメージを持って学習に臨んだおかげで、生徒たちは、それぞれの制度について羅列的に記憶するだけでなく、制度の共通点を比較しながら、江戸時代の大名統制の仕組の肝をつかんでいくことができました。同時に、江戸時代が今後どのように展開し滅びていくのかについて見通しを持つことにもつながりました。

 

数学 比例と反比例(中学1年生で実施)

3種類の給水口から水を入れた場合の水位と時間の関係を、それぞれグラフ、表、式で表し、その結果を持ち寄って、3つの給水口から同時に入れた場合を考える課題に取り組み、比例定数の意味に注目します。

ジグソー課題
3つの給水口から同時にプールに水を入れ始めて、何時間何分後にプールの水位が150cm になるか
エキスパート
エキスパートA:給水口Aで水を入れたときの時間と水位との関係のグラフ
エキスパートB:給水口Bで水を入れたときの時間と水位との関係の表
エキスパートC:給水口Cで水をいれたときの時間と水位との関係の式
期待する解答の要素
・1本の給水口でプールに水を入れたとき、6時間で150cm になる。
・比例定数が1時間あたりに入る水位を表していることに気づく。
結果(時間)だけを答えさせるのではなく,その結果を導いた手順を説明できるようにする。
ポイント
単元のまとめで知識構成型ジグソー法を活用した例です。生徒たちは、1つの給水口から水を入れた場合の推移と時間の関係を、既習事項を活用して式や表、グラフにすることができましたが、ジグソー活動で苦戦しました。しかし、「1つの給水口から入る単位時間あたりの水の量を足す」ということに気づいていく過程で、何気なく使っていたy=axという形の式において「a」に来る数値の意味を、一人ひとりが見直し、自分なりに納得することができました。

 

理科 雲ってなんだろう(中学1・2年生で実施)

「空気の体積と温度」、「空気中の水蒸気と水」、「すがたを変える水」のそれぞれを学んだ子どもたちが集まり、ペットボトルの中に「くもり」が生じる実験を解明することを通して、雲とは何かを科学的に整理することを試みます。

ジグソー課題
ペットボトルの実験でくもりが生じたメカニズムを図で説明し、雲とは何かを科学的に整理する
エキスパート
エキスパートA:空気の体積と温度
エキスパートB:空気中の水蒸気と水
エキスパートC:すがたを変える水
期待する解答の要素
以下の5つの要素を結び付けた説明を期待する
・ペットボトルの中には、もともと目に見えない水蒸気があったこと
・ピストンを引くことでペットボトル内の気圧が下がったこと
・気圧の低下による断熱膨張でペットボトル内の温度が下がったこと
・温度が下がったことで、ペットボトル内の水蒸気の凝結が起きたことの分子モデルに基づく理解
・凝結の際に煙が核としての役割を果たしたこと
ポイント
この教材では、ジグソーにおけるワークシートの工夫により、3つの手がかりを持ち寄って並べるだけでなく、関連づけて深める活動を引き出します。生徒たちは、資料で提示される情報を「ので」「から」でつなぎながら、ペットボトルの中で起こっていたことを図にする活動をとおして、雲のできる仕組を説明するモデルを作っていきます。正解の納得できる表現を求めてそれぞれの考えを出し合うと、クロストークでは、水の粒の動きに着目したモデル、気圧と温度変化の関係に重点を置いたモデルなど少しずつ違う表現が出し合われ、学びの深まりが期待できます。

 

理科 水の電気分解(中学2年生で実施)

「原子」「分子」という概念の基本的な定義や実験のポイントについて確認したことを持ち寄って、水の電気分解のメカニズムを探究します。「こういうこと?」というわかりかけのアイディアを言葉、図、モデルなどを駆使して何度も表現してみることで、「原子」「分子」の概念が少しずつ一人ひとりの身についていくことが期待できます。

ジグソー課題
水の電気分解をわかりやすくモデルを使って説明してみよう
エキスパート
エキスパートA:分子・原子(物質は分子という小さな粒子でできている。分子は原子でできている)
エキスパートB:化学変化(水の電気分解の結果から、水は水素のもとと酸素のもとからできている)
エキスパートC:化学変化の前後の質量(密閉した容器の中では、実験前後の質量は変化しない。 化学変化の前後で、物質をつくるもとになっているものは、組み合わせが変化するだけで、その種類や数は変化しない)
期待する解答の要素
・ 水の分子は、水素原子と酸素原子からできていて、その水素分子が2つくっついて水素分子になり、酸素原子が2つくっついて酸素分子となる。
・ 水の分子2 つが分解されて、水素分子が2 つと酸素原子1 つができる。
発展的な課題
酸化銀の熱分解をわかりやすくモデルを使って説明しよう
ポイント
「前の時間にみんなで観察した実験のメカニズムをみんなで探究し、次時にはそこから見えてきたことを使いながら見直せる次の課題を設定する」という流れで、抽象度の高い「原子」や「分子」の概念の学習を支えています。単元におけるジグソー法の活用のあり方の観点からも参考になる実践です。

 

英語 The best season to visit OKINAWA(中学2年生で実施)

ALTのランパート先生の家族が沖縄旅行をしたがっているというビデオレターの視聴から授業が始まります。お勧めの季節とお勧めの理由をランパートファミリーに伝えるため、アクティビティ、食べ物、気候3つの視点から沖縄の魅力を確認した生徒が集まって英語でどう説明すればいいか考えます。

ジグソー課題
アメリカに住むLambert 家族が来年沖縄を訪れます。夏休み・冬休み・ゴールデンウィークのうち、いつの時期を勧めますか?
エキスパート
エキスパートA:Activities/Events
各季節にできるアクティビティーやイベントをウェビングを使ってアイディアを出し合う。また、それらを英語で説明できるようにグループで練習する。
エキスパートB:Food
各季節に楽しめる食べ物をウェビングを使ってアイディアを出し合う。また、それらを英語で説明できるようにグループで練習する。
エキスパートC:Weather
各季節の気候の特徴やその気候の為楽しめる活動をウェビングを使ってアイディアを出し合う。また、それらを英語で説明できるようにグループで練習する。
期待する解答の要素
沖縄の季節の特徴を踏まえ、相手の事を考えてお勧めする時期を選び、その理由を英語で説明することができる。
(期待する解答例)
We think summer is a good holiday season to visit Okinawa. TheLambert family like outdoor activities so they can enjoy swimming in the sea.
There are many beautiful beaches in Okinawa. They can have BBQ at the beachtoo. They can enjoy summer festivals.
I think Japanese festivals are different from festivals in America. Especially, eisa is good to see Okinawan culture. So we think summer is good holiday season to visit Okinawa.
ポイント
課題設定とエキスパートがポイントです。ALTの存在を活用した課題設定は、子どもたちが「伝わる英語」を考える必要性を自覚しやすくしています。また、3つの季節から1つを選ぶ課題であっても、3つの季節をエキスパートに分けないデザインとしたことで、一人ひとりが考えを出し合わざるをえない状況をつくり、やりとりが生まれやすくなりました。